王仁三郎がかかえた もう一つの問題は、
教団の合法化という懸案であった。大本は最初のころ、
政府の公認する教会ではなかったのである。
当時、天理教や金光教は、
教派神道の一派として公認されていたが、
大本のように非公認の宗教に対しては
国家の安寧秩序や、臣民の義務に反する恐れ
があるとし、内務省が監視の目を光らせていた。
公認教会でないという事は、
正式な布教所や結社でないことに、政府が
いずれ 干渉してくる事は わかっていた。
地元の警察も すでに
「 正式な許可をとらなければ布教活動を許さない 」
と、毎日やかましくいってくる始末であった。
これに対して開祖は、
「 警察がなんといおうとほっておきなされ 」
と、まったく取り合わない。
誇り高い開祖なおは 警察も役所もはねつけ、
あるとき役場から、孫の直日に種痘を接種するよう
いってきたが、開祖は
「 この子に疱瘡など植えたら、
世界が泥の海になると神さまがおっしゃる 」
といって、がんとして応じることはなかったのである。
「 どうしても聞かぬなら、お前の家に大砲を向けるぞ 」
と警察はおどかしたが、
「 兵隊なと大砲なと向けるがよい。
そんなことおそれる神ではない 」
と開祖は強気である。
幕末の一揆騒動などで もまれてきた開祖であること、
今どきの腰抜け役人どもがなんだ、という勢いであった。
これを、
会長や夫人のすみが心配して罰金を納入したりもしたが、
開祖を信奉していた熱血役員達は、後日そのことを知り
みの笠を付けて、警察や役所へ押しかける
というような 騒ぎにまで発展してしまう。
「 罰金を返せ、科料に処せられたとあっては面目が立たん 」
これでは役所も取り合わぬ。
しかし、どこまでも戦闘的な役員たちは、
福知山の検事局まで押しかけ、係りの者を困らせた。
頭にきた係官が
「 帰らぬと軍隊をさしむけて大本を取り潰すぞ 」
と おどしたが、
「 おもしろい、艮の金神と軍隊とどっちが勝つか勝負しよう 」
といい、まったく勇ましいばかりであった。
開祖の強気はよいとしても、大本を早く
独立した教団にしようと 燃える王仁三郎にとっては、
警察の激しい干渉を放っておくわけには、いかなかった。
これらの圧迫から逃れるためにも、
法人組織にする必要があったし、そのために一時的にでも
何処かの公認宗教に関連所属しようと考えるが、
しかし開祖は、他の教団に入ることをひどく 嫌った。
そりに加えて、熱血役員等が
「 艮の金神と軍隊と勝負しよう 」
などというから、ますます事がはかどらない。
艮の金神 とは、神典における 国常立尊であって
同じく神典における豊雲野尊を、坤の金神というが、
両神は対称の関係にあり、神道において
この世を造った創造神は 「天御中主尊」 であるが、
大本でいう 「艮の金神」 と 「坤の金神」 は
主神を働きを二つに大別した呼称であるから、
主神の大分霊といったところである。
開祖や役員が 先の金神さまの御威光にふるい立ち、
これが、あたるべからず勢いであるから
王仁三郎も困惑した。
神さんは偉いに違いないが、
人間は人間としての浮世の義理もある。
今回、下手にこの義理を欠くと、
軍隊が大砲をぶっ放つやもしれぬのだ。
「 それだから この世を悪の世というのだ 」
と王仁三郎がいって聞かせても、
「 元はといえば神さまの家来である人間が
こんな世に してしまったので、
これ以上ほってはおけんから
艮の金神さまが開祖さまに命令を … 」
こんな浮世離れした問答をしていても、
教団はどうなるものでない。
こんないきさつもあって
王仁三郎は いっとき綾部を離れるのであった。