帰神がはじまり、なおは夜となく昼となく、
大きな太い声で神の言葉を叫びつづけた。
なおのこうした激しい神がかりは、
たちまちせまい村の評判になった。
近隣の人々は
「 なおさんはとうとう気がおかしくなったか 」
と 心配した。
もともと、慎みぶかい人柄であっただけに、
そのように噂されることは、なおには苦痛であった。
しかし止めようとしても 口をついて出る声を、
おしとどめるすべはなかった。
その声は
「 世界の人民、
はやく改心いたされよ。足もとから鳥がたつぞよ 」
「 日本と唐との戦があるぞよ 」
と、ぶっそうなことも言い出す。
二月に法華宗の僧侶がやってきて、
なおに憑霊退散の祈擣をほどこした。ところが逆に
「 もちっと修行してこい 」
と怒鳴られ、なおに突き倒されたという。
しかし、なおは帰神から解放されているときは、
こんなことではいけない、と恥ずかしく思う。
ある日、何鹿郡吉美村に
そろばん占いがいるのを思いだし訪ねてみた。
自分にどんな神がついているのか知りたかったのである。
そのそろばん師は
「 なおさん、エライこっちゃで。まあ、どえらい神さんじゃ 」
と鑑定した。そして
「 わしが封じてやろう 」
と力を入れたが、いっこうに封じることができなかった。
三月十日には、じゅず占いを訪ねた。
山家村の本経寺の僧侶で、つきもの封じで有名であった。
ところが、ここでも神がかりがあり
「 コラ、坊主。修行の仕直しをいたせ 」
と、よせつけなかったのである。