帰神状態になると、身体は電気にふれたようになり、
聞こえる物、見える物、それらは別のものが開けていく。
美しい感情に身体がはちきれるように締ってくると思うと、
なおの腹に 何か大きな力が入っているのが自覚される。
その力が腹の底から、玉が上がるように昇ってきて
声となってあらわれてくるのである。
なおは、自分がこのような
夢とも現ともつかぬ気持ちにおかされては、
この先どうなるのだろうと悩むのである。
慎み深い性格だけに、
もしこの神の申すことが間違っていたら、
世間様に申し訳ない … と胸を痛めた。
やがて心が平静になると、なおは
静かに腹の大きな力のかたまりと 問答をはじめる。
「 どうかやめて下され、そんな偉い神さんが、なんで、
わたしのような紙屑買いなどにおかかりなさるのか… 」
すると神はこういう。
「 この世の代わり目に お役に立てる身魂であるから
わざと根底に落として 苦労ばかりさせてある 」
さらに何のために我が身に降臨したのか、ふたたび問うと
「 三ぜん世界 一同に開く梅の花、
艮の金神の世に成りたぞよ。
この神でなければ世の立て替えはでけぬ。
三ぜん世界の大掃除大洗濯をいたすのじゃ。
三ぜん世界ひとつに丸めて
万劫末代つづく神国の世にいたすぞよ 」
と答えた。
しかしそれは、その日の食物にも困っているなおにとって、
世直し どころのさわぎではない。けれど
現実にこの状態は定まっていくのだからやむをえぬ。
つらつら思いみるに 自分がこれまで、
この世にまずない苦労をしてきたことも、
子どもの頃より 神秘な世界にふれることが多かったのも、
何かゆえあってのことであろう。
仕える夫もない今となっては、
自分が この艮の金神さんの命のままに、
夢幻のようではあるが 世直しに生きるのが、
天から授かった 命の清い使い道やもしれない …
やがて、その艮の金神に仕えよう、
神とともに生きようとの決意が固まると、
帰神が穏やかになった。
昼間は行商も可能の状態となってきた。