綾部の金神さん

 
出牢後なおは、半年前に子守り奉公へいった
末っ子すみ をたよりに、八木へ向かったのであった。

八木に滞在する 三ヶ月あまりの間、
なおは入牢で衰弱した体力の回復をはかりながら、
故障している時計をうごかして見せたり、
頼まれて天気予報ならぬ予言を 時々おこなった。

もちろんすべて的中するが、そういう類の不思議は
なおの幼少のころからのもので、
何も 珍しいことではなかった。

体力が元にもどると、
ちょうど時期であった糸ひきの仕事をし、
そのわずかな収入で衣類をととのえ、
末っ子すみを連れて綾部へ帰った。

なおは紙屑買いのついでに、
その家々に上がって神床の掃除もした。
もちろん家人にたのまれるわけでもない。
そんな敬虔な なおに対し、病人のある家では、
神さまにお願いして治してほしい、とたのんだ。
なおが祈擣すると 病人はあっさりと治った。そして

「 また具合悪くなったら
  綾部の方へ向いて拝んで下さいまし 」

と言いのこして帰る。
また病状が悪化した人が、言われた通り

「 綾部の金神さん 」

と唱えると、ほどなく平癒したのであった。
追々にして綾部を中心に、
なおを崇める人がふえたため、
これで良いのでしょうか、と神に問うと、

「 この神は病気治しや現世利益の神ではない。
  しかし今のうちは病気も治してやらんと
  神をよう分けまい。病の者には
  拝みやるがよいぞよ、お陰はさずける 」

と、言葉が返ってきたのであった。

艮の金神は 病気治しの神ではない。
また、天気予報や時計直しや 二、三年先を
予告するための神では もちろんない。
顕、幽、神 三界の
立て替え立て直しのために 出現したのであった。